
こんにちは。行政書士の高橋ゆうこです。
2020年4月からスタートした「配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)」という制度をご存知でしょうか?
相続が発生した際、残された配偶者が住み慣れた自宅に安心して住み続けることができるようにと設けられたこの制度。
今回は、制度の仕組みや使い方、注意点について、行政書士の立場からわかりやすく解説します。
■ そもそも「配偶者居住権」とは?
「配偶者居住権」とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた建物(主に自宅)に、配偶者が無償で住み続けることができる法的権利のことです。
この制度が設けられた背景には、こんな問題があります。
▽ 背景:相続時に配偶者が「住む家を失う」リスク
たとえば…
- 夫が亡くなり、遺産として「自宅」と「預貯金」がある
- 法定相続分に従い、子が「自宅」、妻が「預貯金」を相続
- 結果的に、妻は住む家を失ってしまう…
このような不合理を解消するため、住み慣れた家に安心して暮らせる「配偶者居住権」が新設されました。
■ 配偶者居住権の適用要件
配偶者居住権は、以下のいずれかの方法で認められます。
【取得方法】
- 遺産分割協議による取得
- 遺贈(遺言によって指定)による取得
- 家庭裁判所の審判による取得(協議が整わない場合)
【要件まとめ】
要件 | 内容 |
---|---|
相続人であること | 配偶者が法定相続人であること(内縁の配偶者は含まれない) |
相続開始時に居住していたこと | 被相続人の死亡時点で、その自宅に住んでいたこと |
居住用建物であること | 被相続人が所有していた建物(主に自宅)であること |
登記が必要 | 居住権を第三者に対抗するには登記が必要(配偶者居住権の登記) |
■ 配偶者居住権と所有権の違い
権利 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
配偶者居住権 | 建物を無償で使用・収益できる | 譲渡不可。相続不可。 |
所有権 | 使用・収益・処分すべて可能 | 配偶者居住権とは分離される |
つまり、配偶者居住権を設定した場合、「建物の所有権」は他の相続人(子など)に渡っても、配偶者は住み続ける権利を持つという構図になります。
■ 具体的な事例:どう役立つ?
<事例>夫婦と子1人のケース
- 被相続人:夫
- 相続人:妻(配偶者)・子(1人)
- 遺産:自宅(評価額2,000万円)+預貯金2,000万円
- 法定相続分:妻 1/2、子 1/2
【従来の分割案】
- 妻:預貯金2,000万円
- 子:自宅2,000万円
→ 妻は住む場所を失う可能性
【配偶者居住権を使った分割】
- 妻:自宅に「配偶者居住権」(評価1,000万円相当)+預貯金1,000万円
- 子:自宅の「負担付き所有権」(1,000万円相当)+預貯金1,000万円
→ 妻は自宅に住み続け、子は経済的価値も確保
このように、配偶者居住権を使えば、自宅を売らずに済み、配偶者の生活を守ることができます。
妻が亡くなったときは配偶者居住権は消滅し、子が自宅をすべて取得することになります。そして、このとき子が取得する評価額分には相続税がかかりません。
■ メリットと注意点
【メリット】
- 配偶者の住まいを守れる(住み慣れた自宅に安心して住める)
- 他の財産(預貯金など)を他の相続人に多く分けやすい
- 節税効果(配偶者居住権は所有権より評価が低いため)
【注意点】
- 登記をしないと第三者に対抗できない(売却・差押えのリスク)
- 配偶者は貸したり売ったりはできない
- 建物の修繕・維持管理について一定の責任がある
- 評価額の計算が複雑で、税理士などとの連携が必要
■ 知っておきたい「短期居住権」との違い
種類 | 内容 | 期間 | 条件 |
---|---|---|---|
短期居住権 | 相続開始直後、配偶者が無条件で居住 | 原則6か月 | 自動的に発生 |
配偶者居住権 | 長期的に居住可能な権利 | 終身または一定期間 | 遺産分割・遺贈などが必要 |
短期居住権は“とりあえずの居住保障”、配偶者居住権は“将来にわたる住まいの安定保障”というイメージです。
■ まとめ:配偶者の老後を守るために知っておくべき制度
配偶者居住権は、特に高齢の配偶者が残された場合に、「住まい」という最も基本的な安心を支える制度です。
しかし、制度をうまく活かすには、**相続人間の話し合いや、生前からの準備(遺言書の作成など)**が不可欠です。
行政書士としては、以下のようなご相談に対応しています:
- 配偶者居住権を活用した遺言書の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 登記や税務への連携について
配偶者居住権を含めた相続対策に不安のある方は、お気軽にご相談ください。
ご家族の将来を守る第一歩は、「正しい情報を知ること」から始まります。
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