
こんにちは。行政書士の高橋ゆうこです。
被相続人が亡くなった後、ご遺族が遺品整理などをしていると、複数の遺言書が出てくることがあります。これは決して珍しいことではありません。
しかし、「どの遺言書が有効なのか」「どれに従えばよいのか」といった判断は、相続人にとって大きな悩みの種になります。
今回は、複数の遺言書がある場合の基本的な考え方と、実務での対応方法について、行政書士の立場からわかりやすく解説します。
1. 遺言書は「最新の内容」が原則有効
民法では、遺言書はいつでも撤回できるとされています。そのため、遺言者が後から作成した遺言書が、前の遺言と矛盾・抵触する内容を含む場合には、その抵触する部分については、後の遺言が優先されます(民法1023条)。
ただし、注意すべき点がいくつかあります。
✔ 遺言書が全部撤回されているわけではない場合もある
後の遺言書が「一部の内容のみ変更している」場合、変更されていない部分は前の遺言も有効となる場合もあります。
✔ 日付が不明確な遺言書はトラブルのもと
有効な遺言書とするには、「作成年月日」が明確である必要があります。日付がない遺言書や、記載内容が曖昧なものは有効な遺言とみなされません。
2. 遺言の種類と法的効力
複数の遺言書が見つかった場合、その種類と有効性をチェックすることが重要です。
遺言の種類 | 法的要件 | 裁判所の検認 |
---|---|---|
自筆証書遺言 | 自筆で全文、日付、署名、押印(財産目録は自書でなくてもよいが署名押印が必要) | 必要(ただし法務局保管の場合は不要) |
公正証書遺言 | 公証人が作成・保管 | 不要 |
秘密証書遺言 | 公証人に署名を確認してもらう | 必要 |
✔ 公正証書遺言は優先される?
「公正証書遺言の方が有効」と誤解されがちですが、遺言の効力は作成形式ではなく、日付の新旧が基本です。
3. 実務における確認ポイント
複数の遺言書が見つかった場合には、以下の点を順に確認しましょう。
① 全ての遺言書を収集し、作成年月日を確認
→ 一見、古いように見えても内容が有効な場合があります。
② 内容の矛盾点を精査
→ 前の遺言が撤回されているか、補完しているのかを確認。
③ 無効のリスクがある遺言書を検討
→ 署名がない、日付がない、押印がないなど形式不備は要注意。
④ 検認手続きの必要性を判断
→ 自筆証書遺言は、家庭裁判所での「検認」が原則必要です。
4. ケース別実務事例
事例①:公正証書遺言と自筆証書遺言が両方あった
→ 日付が新しい方の遺言書が優先。ただし、自筆証書遺言が形式不備で無効となる可能性もあるため、法的チェックが必要。
事例②:3通の自筆証書遺言が見つかった
→ 各遺言書の作成年月日を確認し、矛盾する部分は新しいものを優先。矛盾しない部分は、両方有効な場合もある。
事例③:新しい遺言に「前の遺言を撤回する」記載がある
→ 全面的に新しい遺言が有効となる。ただし、その記載が曖昧な場合は部分撤回と解釈されることもある。
5. 行政書士としての対応とアドバイス
行政書士は、遺言書の形式や内容を確認し、法的な有効性の判断の補助を行うことができます。また、必要に応じて相続関係説明図の作成、遺産分割協議書の作成支援なども可能です。
☑ トラブルを避けるためには
- 遺言書を複数書く場合には、相続人が悩むことがないように、前の遺言を全面的に撤回することを明記するか、前の遺言との関連性を明記する。
- 遺言書は公正証書で作成するのが安心。
- 遺言書の最新の写しを家族に知らせる。
- 法務局の自筆証書遺言保管制度の活用も有効。
まとめ
遺言書が複数見つかった場合は、
👉 「最新の遺言が原則有効」
👉 「遺言の種類や形式にも注意」
👉 「必要なら専門家に相談」
という3点を念頭に、冷静かつ慎重に対応することが大切です。
遺言書の書き方に迷っている方や、複数の遺言書が見つかって判断に迷っている方は、お気軽にご相談ください。相続手続きのプロとして、円満な相続のために全力でサポートいたします。
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