
前回のブログでは、「婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与・遺贈は、原則として特別受益の持戻しが免除される」ことをご紹介しました。
今回はそれを**実際にどう活用すればよいか?**という視点から、
生前贈与と遺言の両方の選択肢を比較しながら、わかりやすくご説明します。
■ 選択肢①:生前贈与で今すぐ自宅を渡す
▽ メリット
- 早めに財産の行き先を明確にできる
- 高齢の配偶者が安心して暮らせる
- 贈与後すぐに名義変更が可能
▽ 注意点
項目 | 内容 |
---|---|
贈与税の課税 | 通常の贈与では、基礎控除(年110万円)を超えると贈与税が課税される |
登記費用・登録免許税 | 不動産名義変更には登録免許税(固定資産税評価額×2%)が必要 |
不動産取得税 | 原則課税だが、居住用不動産で一定要件を満たせば軽減可能 |
💡 ポイント:配偶者控除の特例(贈与税)を活用しよう!
婚姻期間20年以上の配偶者間での居住用不動産の贈与には、
【2,000万円まで非課税】となる贈与税の配偶者控除が使えます。
制度名 | 贈与税の配偶者控除 |
---|---|
対象 | 婚姻20年以上の配偶者 |
非課税枠 | 最大2,000万円(+基礎控除110万円) |
要件 | 居住用不動産の贈与、贈与後も居住継続など |
※この特例は一生に一度だけ使えます。
■ 選択肢②:遺言によって自宅を遺す
生前に自宅を渡すのではなく、**亡くなった後に遺贈(相続)**する方法も有効です。
▽ メリット
- 贈与税ではなく、相続税の課税対象となる(税率の面で有利な場合が多い)
- 財産の所有権は自分の生存中は変わらない(生活への影響が少ない)
- 遺言書に「持戻し免除」の意思を書き添えれば、相続時のトラブル回避になる
▽ 注意点
- 遺言書は法的形式を守らないと無効に
- 他の相続人とのバランスが悪いと、遺留分侵害額請求を受けるリスクあり
■ 実務でよくある2つの選択シナリオ
✅ ケース①:配偶者の生活を今すぐ安定させたい → 生前贈与+登記
夫:「妻の名義に早めにしておきたい。何かあっても安心できるように」
→ 登記、贈与税の特例を活用し、自宅名義を変更
→ 遺産分割の煩雑さを回避しやすくなる
✅ ケース②:まだ生活に影響を与えたくない → 遺言で明記
夫:「自分が亡くなってから妻に自宅を遺したいが、他の相続人とのバランスも考えたい」
→ 自筆証書遺言や公正証書遺言を作成
→ 「本物の意思」が明確になることで、相続トラブルのリスクが大幅に軽減
■ 遺言書作成のポイント【例文あり】
▽ 公正証書遺言がおすすめ
- 公証人が作成、形式ミスなし
- 家庭裁判所の検認が不要
- 紛失・改ざんのリスクも回避
▽ 記載例(持戻し免除を明記する)
第○条
私の配偶者〇〇に対し、次の不動産を遺贈する。
(不動産の表示)
所 在:〇〇市〇〇町
地 番:〇〇
地 目:宅地
面 積:〇〇平方メートル
この遺贈については、民法第903条第4項に基づき、特別受益の持戻しを免除する。
■ 生前贈与と遺言、どちらを選ぶ?
比較項目 | 生前贈与 | 遺言による遺贈 |
---|---|---|
税制優遇 | 贈与税の配偶者控除(最大2,000万円) | 相続税の基礎控除など |
タイミング | すぐに名義変更 | 死後に効力発生 |
実務の負担 | 登記、申告など手続き多め | 遺言書作成のみ(公正証書なら手続きスムーズ) |
相続対策 | 早めの名義移転でトラブル回避 | 他の相続人とのバランスを考えやすい |
結論:ご夫婦の年齢・資産状況・家族関係によって、最適な方法は異なります。
■ まとめ:制度と制度を組み合わせると、相続はもっと安心に
- 民法903条4項の「持戻し免除の推定」
- 贈与税の「配偶者控除」
- 配偶者居住権(配偶者が住み続ける権利)
これらの制度を正しく組み合わせて使うことで、配偶者の生活を守りつつ、円満な相続を実現することが可能です。
- 「生前贈与と遺言、どちらがいいのか?」
- 「遺言書を作るならどこまで書いておくべきか?」
あなたの家族構成や希望に合わせた対策を講じていきましょう。
どうぞお気軽にお問い合わせください。
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